「夏至光*蝶も私も迷子かな」

カナダde着物

第72話
*初夏の着物と帯:紫陽花に魅せられて*

 日本からカナダに戻ると、まず真っ先に自然の違いに気づかされます。

 「澄んだ空気」と「強い光」

 空気は乾いていて、風が衣服をすり抜ける湿度のない空気は、なんとも言えない心地よさがあります。 そして、長く強く射し込む眩い光、そんな光の中では、蝶も私も、ふと迷子になってしまいそうです。 気温の変化が激しい季節、どうか皆さまもお身体を大切に、お健やかにお過ごしくださいませ。

「Waterfall and pond」 Manto Artworks
「Waterfall and pond」 Manto Artworks
「Cabbag White Butterfly」Manto Artworks
「Cabbag White Butterfly」Manto Artworks

*今日の着物*Today’s Kimono

「初夏の着物:紫陽花に魅せられて」

 最近、道を歩いていると、目を奪われるのが紫陽花です。
 淡い青や紫、私の大好きな小ぶりな白や薄い緑色の花々。
 どこか手染めの着物や帯の柄のようでもあります。

 お気に入りの紫陽花の名古屋帯は、混麻の素材が涼しく、どの着物にも合う重宝な一枚です。 茶道のお稽古や友人との会食など、色々な場面で活躍し、着付教室の生徒さん達には、いつもお勧めしています。あえて、着物に紫陽花を施さず、帯の柄にすることで、額縁の中の絵画のよ うに見せることができるでしょう。

「紫陽花柄の名古屋帯」コナともこ
「紫陽花柄の名古屋帯」コナともこ

 6月の着物は、雨の雫ごしの風景のような、暈しやモザイク柄が好きです。 単の着物ですので、気軽に楽しめるカジュアルな兵児帯にして、淡い雰囲気を出すのはいかがでしょうか。

 紫陽花に魅せられて選んだこの着物や帯は、また来年の初夏、箪笥の中でそっと私を待ってい てくれる。
 そんな風に思うと、季節を重ねることが少し楽しみになりますね。

「単の着物と名古屋帯、兵児帯」コナともこ
「単の着物と名古屋帯、兵児帯」コナともこ

*今日の和の学校*Today’s gathering*

 先日、コキットラム市にある東漸寺(とうぜんじ)の本堂にて、「施餓鬼大法要(せがきだいほうよう)」が 執り行われました。これは毎年6月14日の「東漸寺の日」に合わせて行われるもので、当日は朝から本堂に特別な設えが施され、厳かな雰囲気の中で法要が進められました。

 「施餓鬼」とは、餓鬼道に落ちた霊や、供養されることのない無縁仏に食べ物や飲み物を施し、供養する仏教の伝統行事です。

 この法要に参加しながら、ふと思い出したのが、現在NHKの連続テレビ小説で放送されている「あんぱん」です。先週の放送では、漫画家・やなせたかしさんが第二次世界大戦中に体験した、戦場での悲惨で苦しい日々が描かれていました。

 人間にとって何が一番つらいか、やなせさんは「ひもじいこと」だと語ります。そして、本当のヒーローとは「食べ物をくれる人」なのではないかと訴えていました。

 現代の私たちは、食べ物が豊富にある時代に生きています。しかし、そうではなかった時代が確かに存在していました。

 私の父は、来月92歳になります。子どもながらに戦争を体験した世代であり、当時の記憶はきっと今も残っているはずですが、その頃の話を自分から語ることはほとんどありません。ただ、その無口さの奥に「食べ物を粗末にしてはいけない」という強い思いが感じられます。

 父の兄、つまり私の伯父は、戦争体験を語る会に参加し、当時の状況をスケッチ画を通して伝えてきました。伯父の話から、私たちはあの時代の一端を知ることができました。

 戦争を実際に体験した世代は、年々少なくなっています。80年前の出来事は、もはやテレビや映像を通してしか知ることができなくなりつつあります。

 それでも今もなお、世界のどこかでは戦争が続き、かつて父たちが経験したような「ひもじさ」に苦しんでいる子どもたちがいるかもしれません。「食べ物をくれるヒーロー」、まるでアンパンマンのような存在を心のどこかで願っている子どもたちが、きっといることでしょう。

 そう思うと、私たちは施餓鬼の法要に込められた「誰かを思いやる気持ち」や「命をつないでいくことの大切さ」について、今一度立ち止まって考えてみることが大切なのではないでしょうか。

「施餓鬼大法要が行われた東漸寺」コナともこ
「施餓鬼大法要が行われた東漸寺」コナともこ

*参照*

暦生活
https://www.543life.com

家庭画報 紫陽花の着物と帯
https://www.kateigaho.com/article/detail/78666

著者の伯父が語り部をしていた静岡平和資料センター
https://shizuoka-heiwa.jp

施餓鬼大法要が行われた東漸寺
https://tozenjibc.ca

*参照*

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

コナともこ
アラフィフの自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
14年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/wa_no_gakkou_tozenji/
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東漸寺Tozenji Temple https://tozenjibc.ca/

コナともこ
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「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks