陶芸・絵画・バーナビー市でのレジデンシー期間に制作した作品などを展示

バンクーバー美術館(Vancouver Art Gallery)で5月25日、大谷工作室さんの個展「Otani Workshop:Monsters in My Head」が始まった。陶芸展「Written in Clay:From the John David Lawrence Collection」との同時開催。キュレーターはダイアナ・フランドルさん。
一歩足を踏み入れると、まるで森の中に迷い込んだかのような印象を受ける照明を落とした展示場内。メープルリーフや小枝に囲まれた切株には森の妖精のように可愛らしい陶器の作品が並ぶ。来場者が最初に入る展示室は、昨年8月に大谷さんが「Deer Lake Artists Residency」で約1カ月滞在したバーナビーの森をイメージ。現地で調達した素材を使い、現地の窯で作り上げた作品16点を展示する。

6週間ほど滞在したカナダの印象を「穏やかで親切な人が多いな、という印象を受けた」と話す大谷さん。「バスを降りる時に皆が運転手さんに『ありがとう』と声をかけていたり、小さなことでも優しい言葉を言う人が多いと感じた」。滞在したスタジオの周囲には湖や森があり自然が豊かな場所。「町からそれほど離れていないのに、緑が多くビーバーやフクロウ、コヨーテがいる静かな環境だった」と楽しんだ様子も。
展示作品には、金継ぎをした初の作品も数点含まれている。「窯も粘土も違うため思ってもみない割れ方をした物があった。美術館を通して紹介を受けたBC(ブリティッシュ・コロンビア)州在住のアーティスト福丸直子さんの助けもあり、金継ぎをしてみた。今までとはまた違う感じの作品ができたのでは」と振り返る。
二つ目の展示室は日本のスタジオをイメージ。陶器、彫刻作品と共に絵画作品も多く展示。大谷さんオリジナルの怪獣「タニラ」や子どもの顔をモチーフにした作品、大谷さんが子どもの頃からアーティストになるまでの道のりを描く絵本「Monsters in My Head」の原画などで大谷さんの世界感を紹介する。

作品で見る者を引き付けるのは素朴な雰囲気の「顔」。顔を多く扱うことについては「彫刻を勉強したのだが、顔というのは一番ダイレクトな感じがする。見る人が興味を持ちやすいというか」と説明。キュレーターのダイアナ・フロンドルさんが「時に埴輪を思わせるような目は静かにいろいろな思いを伝えている、大谷作品の大切な要素」と評した「目」については、「目は一番大事だと思っている。目に(特定の)感情を込めて描いているというよりも、作っている時に作品の中で表情が動く瞬間があり、これだなと思う」とそのプロセスも。
大谷さんは「初めての美術館での個展なので、ぜひ楽しんでもらえれば」と期待を話した。
同時に開催される「Written in Clay:From the John David Lawrence Collection」では1回西側半分を使い、美術収集家ジョン・デービッド・ローレンスさんの1500点以上にわたる陶芸コレクションの中からブリティッシュ・コロンビア州の作家による1920年代~2000年代までの作品約200点を厳選。地元の陶芸シーンの発展に影響を与えたアーティストたちの作品を展示する。

フランドルさんは「土の匂い、作品の質感、作品から広がるイマジネーションなど全ての感覚を使って楽しめる展示だと思う」とし、「今回の二つの展示の共通点は陶芸なのだが陶芸という器だとも言える。陶芸作品自体が花瓶、ティーカップなどさまざまな形で花や水の器となるように、陶芸作品は経験、記憶、物語の器にもなることができる」と話す。「双方の展示を合わせてアートの持つクリエイティビティとイマジネーションの美しさを体感してもらえれば」とも語った。
「Otani Workshop:Monsters in My Head」
期間:2025年5月25日~2025年11月9日
開館時間:10時~17時。金曜のみ20時まで
会場:Vancouver Art Gallery (750 Hornby St. Vancouver)
入場料など詳細はウェブサイトを参照:https://www.vanartgallery.bc.ca/
(取材 Michiru Miyai)
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