「最新のアントレナーシップ」早稲田大学ビジネススクール長谷川博和教授 特別講演

長谷川博和教授。講演会場で。2025年5月18日、バンクーバー市。撮影 Michiru Miyai
長谷川博和教授。講演会場で。2025年5月18日、バンクーバー市。撮影 Michiru Miyai

 カナダ・バンクーバー市UBCロブソンスクエアで5月18日、早稲田大学ビジネススクールの長谷川博和教授による特別講演が行われた。主催PacPeak、後援は在バンクーバー日本国総領事館、日本カナダ商工会議所(JCCOC)、企友会。

 「最新のアントレプレナーシップ」と題された今回の講演。証券アナリストを経てベンチャーキャピタル代表として数々のスタートアップ企業に投資をした長谷川教授が、専門とするアントレプレナーシップについて解説、日米のスタートアップの違い、企業のグローバル化、AIの活用とデジタル化の必要性などについて話した。

 野村総合研究所での証券アナリストとしての勤務ののち、ベンチャーキャピタル「グローバルベンチャーキャピタル株式会社」を起業した長谷川教授。日本、アメリカ、台湾、中国などグローバルに投資。「インダストリーよりも人に投資しようと、基本的に人やチームを見て会社設立の初期から投資するスタイルでやってきた」と、インターネット総研、スカイマークエアライン、オイシックスなどを上場企業に育てあげた経験を話した。「当然上手くいかなかった会社も数多くある。研究者となった時に失敗談も失敗に関するデータもたくさんあるのでケーススタディや統計分析に役立っている」と振り返った。

 早稲田大学ビジネススクールでは「アントレプレナーシップ」を専門に研究。新しい事をゼロから始める「ベンチャー」、大企業の進めるイノベーション「新規事業」、世代交代に伴い新しい取り組みをする「ファミリービジネス」、の3つの領域の重なるところを「アントレプレナーシップ」と定義し研究を続け、次世代のアントレプレナーを指導する。

 講演では日米ともにスタートアップへの投資額は落ちており、世界的に内向き志向になっている現在の経済状況も説明。関税対策など短期的な対策は必要だが、グローバルな目線で長期的な経営戦略を考える必要性も話す。「企業のグローバル化に必須なのがAI化とデジタル化なのだが、現状は効果的に導入できていない企業が数多くある」と説明。「AI化、デジタル化に遅れている業界にこそ(導入による)革新が起こる可能性がある」とAI開発だけでなく、AIの産業化にもビジネスチャンスがあると説いた。

 AIの登場、世界経済の状況から現在は「変動の時代だ」とし「このような変化の時だからこそ、資金力のないアントレプレナーにもチャンスがあると言える」と話す長谷川教授。「以前は単純労働がAIに奪われると考えられていたが、近ごろは高度な経験のいる仕事の方がAIに取って代わられるとされている」とも話し、「AIによる変化を予測し上手く適応するところにビジネスの可能性がある」と講演を締めくくった。

 会場には日系ビジネス経営者、投資家、若い起業家や留学生など約30人が来場。講演後の質疑応答では質問が多く寄せられた。「アメリカや中国と比べると日本にはスタートアップ企業が少ないと思うのだが、何が差をつけているのか」という質問には、「シリコンバレーなどは世界中から起業家が集まって来るし、スタートアップの専門家が多くいるので、(必要な人に)出会う機会も多いというのはあると思う」と答え「ただサンフランシスコは物価が高く生活するだけでも大変だ。少しでも早く成果を出さなければ資金が続かないという必死さが、日本の起業家と比べて格段に強いというのも大きな理由では」と考えを述べた。

 カナダで注目しているスタートアップや分野はあるか、との問いには「カナダに関しては詳しくないのだが」と前置きをし「若いスタートアップが多くあると聞いた。アメリカに近いという地理的な利点もあるので、アントレプレナーの領域でもっと日本とカナダの若い世代の交流が進めば面白いことができるのでは」と期待を表した。

講演中の長谷川教授。2025年5月18日、バンクーバー市。撮影 Michiru Miyai
講演中の長谷川教授。2025年5月18日、バンクーバー市。撮影 Michiru Miyai

(記事 Michiru Miyai)

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