トロント国際映画祭TIFFレビュー 絞りに絞った3作品を紹介

 終わってしまいました(涙)。トロント国際映画祭!今年はご存知のように、全米俳優組合と全米脚本家組合のストライキが続行中のため、レッドカーペットは少な目でしたが、それでも日本、韓国、ヨーロッパからは監督や俳優さんが参加しトーキング・ヘッズやポール・サイモン、ニッケルバックなどの音楽関係者がドキュメンタリー映画に合わせて登場したりとそれなりに楽しませてくれました。あ、最終日にはあのSLY様、シルベスター・スタローンも登場し会場から「ロッキー!」コールを受けました。そして肝心な映画の方は、もちろん良作がたくさん上映されオスカーの前哨戦として、しっかり役目を果たしたなぁと感じました。というわけで、今回は私が実際にTIFFで観て良かった映画3作品をご紹介しようと思います。

 紹介した映画の多くは数か月以内には劇場公開になるので、皆さんも機会があったら映画館に足を運んでみて下さい。

American Fiction(Cord Jefferson監督)

American Fiction(Cord Jefferson監督)より。Courtesy of TIFF
American Fiction(Cord Jefferson監督)より。Courtesy of TIFF

 あらすじ-主人公は大学で教鞭をとる黒人の作家。近年本が売れていない彼が書いているものは文学なのに書店では「黒人」セクションに置かれ、出版社からは「黒人らしさが足りない」と拒絶される日々。そんな時、招待された文学フェスティバルで、ステレオタイプな黒人の不幸を描きベストセラーとなった若い黒人作家が大注目を浴びているのを目にし一層やるせない気持ちに。同時に母の病気や家族の問題が重なり、なかばやけくそで「典型的な黒人の物語」を書いて出版社に送ったところ思わぬ方向に話がどんどん進み・・。

 これ、本当に面白かったです!コメディなので笑うところもたくさんあり、それでいて温かい家族のストーリーがあって。人種ステレオタイプって本当にやっかいなもので、アジア人だって映画に出てきてもマフィアか医者ばっかり、みたいな感じありますよね。私たちはダイバースよっ!どやっ!と思って満足そうにしている側と、実はそうじゃないんだよ・・と思っている側、そして大衆は結局見たいものだけを見て喜んでいるという現実をチクッと風刺しています。主演のジェフリー・ライト、そして弟役のスターリング・K・ブラウンなど俳優陣も素晴らしかったです。TIFFではPeople’s Choice Award (観客賞)を受賞しました!

Concrete Utopia(オム・テファ監督)

Concrete Utopia(オム・テファ監督)より。Courtesy of TIFF
Concrete Utopia(オム・テファ監督)より。Courtesy of TIFF

 あらすじ-大地震の後、廃墟となったソウルで唯一倒壊せずに残ったアパートを舞台とするディストピアもの。自分たちが住んでいるアパートが無事だったことに安堵しながらも廃墟となった街を見て途方にくれている公務員のミンソン(パク・ソジュン)とミョンファ(パク・ボヨン)の夫婦。子連れの女が助けを求めて来たので部屋に受け入れたものの、次第に外部からの避難者はビルから排除しようとする声がアパートの住民の間で大きくなり従わざるを得なくなる。混沌とした世界で生き残るために、独自の正義を人としての倫理より優先する人たちと巻き込まれていく人びとを描く人間模様。

 災害はもちろん怖いけど、一番怖いのは人なんだと思わせられる映画。地震後からストーリーが始まるので現実からほど遠い世界が舞台なんですが(セットもすごかった!)、パク・ソジュンとパク・ボヨンの演じる夫婦がとても自然で、災害前の普通に街にいる仲の良い夫婦をふっとイメージさせてくれる演技がすごく良かった。イ・ビョンホンは目が笑っていないぞっとする表情とか、さすがの演技力で魅せてくれます。パク・ボヨンが舞台挨拶の時に、偉大な先輩のビョンホンさんと対峙するシーンが難しくて彼の写真を見ながら目を煮干し?(Dried Anchovies と英訳されていた)と思って練習した、と言っていたのがすごく可愛かったです。

Sing Sing(Greg Kwedar監督)

Sing Sing(Greg Kwedar監督)より。Courtesy of TIFF
Sing Sing(Greg Kwedar監督)より。Courtesy of TIFF

 あらすじ-ニューヨーク州に実在するアート活動を利用したリハビリプログラムRTA(Rehabilitation Trough Art)を実施している刑務所が舞台の物語。役を演じることによって、自分の弱さに向き合い人の心を見つめ直す効果があるというプログラムのもと、メンバーは6か月ごとに次の芝居に向けての準備を始める。ある時新しく加入したメンバーの提案で初めてコメディーを演ることに。各自やりたい役のアイデアを出しオリジナルなとんでもな脚本が出来上がっていくが・・・。演じるという目的を持ち稽古を重ねるなかで、囚人たちの心が繋がり成長してゆく様子を描く。

 なんとなく宣材の写真だけで良さそうだと思って観てみたら大当たりでした!TIFFの時点では決まっていなかった配給会社も、あのA24 に決定したそうなのできっと年明け頃には公開になるのでは。主役級の二人以外は多くの出演者が、題材になった刑務所のRTAプログラムの経験者だそうです。なので楽しい性格もご本人たちの素顔なのかも。アートが人の心に及ぼす力、人が人として生き直す力を見せてくれる心温まる、だけど考えさせられるところも多い映画です。会場では泣いている人もたくさんいて、上映後は長い長いスタンディングオベーションでした!

 追記:もう日本でご覧になった方も多いかとここでは紹介しなかったのですが、Monster(是枝裕和監督)も人の心が繊細に丁寧に描かれていて、最後まで観ないと真実がわからない構成が素晴らしかったです。バンクーバーではVIFFで上映されるので、観に行かれる方は前知識なしで!!行かれることを強くおすすめします!

 そして来週からはバンクーバー国際映画祭VIFFですね!次回はVIFF作品のレビューも予定しているので、良ければお付き合いください!

Lalaのシネマワールド
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バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
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Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
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