Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)Photographer : Chalifour, Benoît ©Tourisme Québec
Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)Photographer : Chalifour, Benoît ©Tourisme Québec

 カナダ東部ケベック州のマドレーヌ諸島。セントローレンス湾の中央部にあり、流氷におおわれる2月下旬から3月初旬にかけて、タテゴトアザラシ(ハープシール)の赤ちゃんを見ることができる。

 真っ白な体につぶらな黒い瞳のタテゴトアザラシは、カナダに生息する動物の中でも人気が高い。タテゴトアザラシは群れで生息し、母親たちは2週間ほどの短い期間に子育てをしたあと、赤ちゃんたちを置いて去っていく。

 過酷な環境をたくましく生き抜いているタテゴトアザラシが母親と過ごす2週間を追う。

流氷の上で生まれるタテゴトアザラシ

Harp seal: (タテゴトアザラシの成獣)Photographer : Lavoie, Jean-Guy ©Tourisme Québec
Harp seal: (タテゴトアザラシの成獣)Photographer : Lavoie, Jean-Guy ©Tourisme Québec

 タテゴトアザラシは群れで暮らす動物だ。毎年2月になると、北極海からセントローレンス湾のマドレーヌ諸島周辺に、出産、子育てのために移動してくる。

 出産は付近を覆う流氷の上。赤ちゃんたちは氷が解けるまでに生きる術を学ぶ。その期間はたったの12~15日間という。この約2週間に、母親は赤ちゃんに授乳して、泳ぎを教える。

 生まれてすぐの赤ちゃんはイエローコートと呼ばれる黄色がかった白い毛におおわれている。黄色がかっているのは羊水の色で、その後数日で、色が抜けてホワイトコートと呼ばれる真っ白な毛になる。

 白い毛は氷上の保護色となって、天敵から守ってくれる。赤ちゃんアザラシの天敵はキツネやオオカミだという。一方、成獣を捕食するのはホッキョクグマ(シロクマ)やシャチ、サメなど。

 ふわふわのホワイトファーは厚く暖かい。成長するにつれて白い毛は抜けて、3〜4週間後には親と同じ灰色の毛グレーコートとなり、背中にタテゴトのような模様が現れる。これがタテゴトアザラシの名前の由来となっている。

 生まれたての赤ちゃんの体重は約25lb(約11kg)で、体長は80~85cm 。生まれて12日間ほどは母親のミルクのみで育つ。脂肪分45パーセントと高脂肪のミルクで、赤ちゃんアザラシは毎日5lb(2.3kg)と急速に大きくなる。一方、母親は一日6lb(2.7kg)ずつ痩せていく。

 離乳するころには赤ちゃんアザラシは80lb(36.3kg)に達する。早く成長するのには理由がある。生後しばらくは母親と一緒にいるが、2週間たつと、母アザラシは子どもを置いて去っていくからだ。

短いからこそ、密な母子の時間

 出産して数日は母アザラシは、自分の食事をせずに赤ちゃんにつきっきりだという。通常、メス1頭が生む赤ちゃんは1頭のみ。子育てするのは母親で、父親は関わらない。

 3日ほど経つと、母アザラシは氷に穴をあけて、やっと自分の餌を取りに行く。穴はシールホールと呼ばれる。その間、赤ちゃんアザラシは氷上に残されて、母親が帰ってくるのをひたすら待つ。戻ってきた母は嗅覚で自分の子どもを確認する。その様子はまるでキスをしているようで微笑ましい。

 母親がいなくなった間に子どもが移動してしまったりすると迷子になることがある。タテゴトアザラシの母親は自分の子どもでなければ授乳しないので、母親からはぐれてしまうことはすなわち死を意味する。

 数日すると泳ぐレッスンが始まる。水に入るのを怖がる赤ちゃんを母親は根気よく水の中に誘う。おっかなびっくりの赤ちゃんに母親がつきっきりで泳ぎを教えることで、5日ほどすると泳ぐことができるようになるそうだ。

Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)Photographer : Lavoie, Jean-Guye ©Tourisme Québec
Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)。涙を浮かべているような写真をよく見かけるが泣いているのではなく生理現象だそう。Photographer : Lavoie, Jean-Guye ©Tourisme Québec

あっという間に訪れる母子の別れ

Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)Photographer : Huard, Jean-Pierre ©Tourisme Québec
Harp seal: Whitecoated pup(タテゴトアザラシ、ホワイトコートの赤ちゃんあざらし)Photographer : Huard, Jean-Pierre ©Tourisme Québec

 泳ぐことができるようになるということは、赤ちゃんアザラシにとって母親との別れを意味する。

 献身的に子どもを育てていた母アザラシたちだが、2週間ほどして子どもたちが泳げるようになると、その子どもたちを置いて、北の海に帰っていく。子どもたちは氷の上に残される。

 もう母親は授乳に戻ってこない。赤ちゃんたちは約6週間何も食べずに過ごすことで、体重が半分になることもあるという。

 子どもたちはすぐ親の群れを追いかけるのではない。氷がとけると、水の中に入ることを余儀なくされ、自分で餌をとるようになる。そして親たちを追いかけて、子どもたちの群れは北に向かう。

地球温暖化

 地球温暖化でタテゴトアザラシも影響を受けている。タテゴトアザラシにとっての“Good Ice”は厚さ30〜70センチメートルだが、1970年代以降、10年に約6パーセントの割合で氷が減少しているという。

 流氷が減り、氷も薄くなっている。その結果、十分に泳ぎを覚える前に海に落ちるなど、赤ちゃんアザラシの生存率も下がっているとされている。

タテゴトアザラシ 

 成獣の大きさは、体重130kg~135kg、体長1.4~1.9m。寿命は約30年。

 ほかのアザラシと比べて潜りはあまり上手ではなく、水面下にいるのは18分、水深400メートル程度まで。

タテゴトアザラシの赤ちゃんに会いたい
 2月末から3月初旬にかけてマドレーヌ島のシャトーマドリーノホテルでツアーを提供している。宿泊費、食事、流氷までのヘリコプターでの移動、防寒着などのサービス込みのパッケージ。ツアーを提供している日系旅行会社もある。

 シャトーマドリーノホテル
 https://www.hotelsaccents.com/en/observations-des-blanchons

Chateau MadelinotのYouTube。母アザラシが嗅覚で子どもを確認する姿を見ることができる。
Chateau MadelinotのYouTube。イエローコートの赤ちゃん。へその緒も見える。

参考資料

https://www.fisheries.noaa.gov/species/harp-seal
https://oceana.org/marine-life/marine-mammals/harp-seal
https://www.quebecmaritime.ca/en/blog/what-you-need-to-know-about-whitecoats-baby-seals

(取材 西川桂子)

合わせて読みたい関連記事